小説更新2回目!

 こんにちは、こんばんは。初めまして、あるいはまたお会いしましたね。
 どうも、金森です。一瞬涼しくなったなあ秋だなあと思ったらまた暑くなりましたねこんちくしょう。マジで許さねえからな夏。
 まあでも冷夏もお米が美味しくなくなるので嫌です。強いて言うならじりじり灼ける太陽からがっちり守られているキンキンに冷房が効いた部屋でお布団に潜りたいですね。ぜーたくぅ。

 はい、ということで小説更新です。こんな始めかたするとなんだがとある時代のことを思い出しますね。あの大航海時代のことを。ウッ。
 今回は小説「葵の花が零れるころに、」の2回目の更新となりました。
 今後とも葵くんには楽しいことをしてもらいましょうね。へへ。

 とりあえず今は、なんだか温い感じになってる冷房を横目に扇風機といちゃこらしてます。
 まあ今日はなんやかや10000文字くらい書いているしこんな時間なのでそろそろ休みます。マジで。うん。

 という訳で、この辺で。

 金森でした。

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葵の花が零れるころに、【第二回】

【第二回】

 ゆっくりと蝶が羽ばたくように、彼の白銀の睫が動いた。

 美しい顔だ。改めてそう思う。物憂げな表情が語るのは、この先の未来についての不安だ。

「ねえ、どうする?」

 僕と彼、葵は進路調査票を机の上に乗せて、ひとつの机を半分ずつ使い、悩んでいた。

 どうせならば、僕は葵の通う大学に行きたい。それがどんな場所でも、僕は構わない。絶対に、葵に追いついてみせる。そう、告げた。

「……この前のも、そうだったな」

 この前?

 どういう意味だろうか。葵は何かを考えている。しっとりと、茂る睫を揺らしながら、調査票の空欄と、その上に書いてある概要を読み直している。

「ねえ、君さ」

 不意に、葵の瞳が僕の方を向く。何事か、と僕も向き直ると、葵は言った。

「一緒に死のう、ってぼくが言ったらどうするの?」

 ――何を、言い出すのだ。

 まだ葵に死んでもらいたくない。この先も、ずっと一緒に生きていくのだ。

 僕はそのために、葵のことを何よりも大事にしてきた。

 痛めつけられればその痛みを喜び、蔑まれれば敬い畏まる。

 それらの行為が葵の感情を動かすのならば、否、たとえ葵にとっての気紛れの、無為なものでも僕はそうしただろう。

 それは葵の刹那的な美しさや、甘い声色、華奢な肉体だけが魅力だったのではない。

 世界を破綻させかねない倫理観がとてつもなく愛おしく、何を投げ打ってでも理解をしたいと思わせる〈何か〉があったのだ。

 どうしようもなく無力で、何をしてもこの世界を変えることはできない。そんな当たり前で済まされるようなことを、葵は拒絶していた。

「一体、誰がこの世界で生きていきなさい、って決めたんだろうね」

 僕には、わからない。親のせい、親類のせい、祖先のせい……様々な要因は考えられる。偶然と運命が複雑に絡み合ったこの縁を生んだのは、きっと人が言う〈カミサマ〉というやつなのだろう。

 僕はそう答えた。

「あっはは。だから君はさぁ」

 明るく、葵は笑う。僕の言葉の何が面白かったのだろうか。

 呆然と葵を見ていると、彼はいきなり椅子から立ち上がり、僕の手を取った。

「行こ。いい場所があるんだ」

 有無を言わせないその言動に、僕は従う他ない。

 結局、夕暮れの教室に鞄も教科書も――調査票も置いたまま、僕は葵に連れられていった。

 いい場所というのは、旧校舎の屋上だった。

 木造とはいえ、それなりの高さがある。きっと、落ちたらどうしようもなくぐしゃりと潰れて、肉塊と化すだろう。

「ね、そこ」

 葵が示した場所を見ると、屋上に建てられているフェンスが一部、錆びて朽ちて、穴が開いていた。

 ここから、飛び降りるつもりだ。

 生唾を飲む。先ほどの葵の言葉が現実になろうとしている。

「ほら、立って」

 葵は楽しそうに、上靴を脱ぎ散らかす。揃えようという気持ちはないらしい。

 ああ、これから死ぬのに靴をそろえようとか、ナンセンスなのだろう。僕は葵に倣って靴を脱ぎ、その辺に放った。

 屋上の縁に立つと、かなり恐怖を感じる。ここから飛び降りるのか……物怖じする。そんな僕を、葵は笑う。

「なにしてんのさ」

 僕は応えらえない。何を言ったらいいのかわからない、

 だがひとつだけ言える。まだ死にたくない。この先、何があるのかわからないけれど、どうなるのかわからないけど、でも、きっと死ぬのは間違っている。

 そう、僕が言うと。

「へぇ」

 す、と。

 葵の表情から笑顔と、温度が消えた。

 こんな表情を――浮かべるなんて。

 間違ってしまったのだ。きっと僕は間違いをしてしまったのだ。

 どうにか撤回しなくては。

 焦る。僕は小鹿のように震える両脚を抑えることもできないまま、しどろもどろに言葉を並べ立てる。

 しかし、葵の表情が変わることはない。

 ……どうして、だ。

「きみ、もう要らない」

 要らない?

 要らない、とは、僕がもう必要ないということ、か。

 葵にとって、必要ないということか。

 乾いた笑いが喉から漏れた。もう何も言うことはない。

 何も考えることができない。思考停止。フリーズ。どう呼んでもいいが、脳味噌が理解を拒否していることに変わりない。

「じゃあさ、ぼくから最後のお願い」

 お願いがある! それはもしかしたら、巧くいけば最後にならないかもしれない。

 叶えよう。約束する。必ずやり遂げて見せる。絶対に遂行する。ああ、今日だけで何度、葵に誤魔化しのような言葉を言ってしまっただろうか。それでも、これは本気で、本当だ。

 最後の最後になってしまっても構わない。どうかやらせてほしい。

「そう? じゃあ。ぼくに、紅い花を頂戴?」

 意味が、わから、ない。

 紅い花? どういうことだ? 何だ、それは。

 僕がそれは何かを考えていると、葵は縁のさらに一段上がった、一歩でも踏み間違えれば真っ逆さまに落ちてしまう、という場所に登って、

「簡単だよ、こうしたらいい」

 言いながら、葵は体を少しずつ傾ける。目を細め、幸せそうな表情で、落ちそうになる。だから僕は、その手を握って、握り返されて――

――一瞬、だった。

 僕の体が落ちていく。葵が、僕の手を引き、振り回すようにして遠心力を使って僕と葵の位置を入れ替えたのだ。

――――……!

 僕の無様な声が響き、ぐしゃん、と湿った音が鳴った。

 …………どうしてだ? まだ意識がある。

 ああ、そうか。一命をとりとめた、というやつか。だが、なんとなくわかった。僕はこのまま死ぬのだ。

 薄暗くなった視界に、葵が映り込む。

「綺麗だったよ」

 葵は、灰色の、見方によっては薄青にも見える虹彩で僕を見る。白銀の蝶が、虹彩を囲んでいた。

 ああ、葵はとても嬉しそうだ。

 よかった、願いを叶えることができた。

 これでもう、進路に悩むこともない、な。

「さて、と。〈これ〉も壊れちゃったなぁ」

 葵は、伸びをして言った。

 これ、も?

 僕は、じゃあ、ただの葵の玩具だったというのか。

「ばいばい、くらいは言おうかな。ね」

 葵は、血液と涎で汚れた僕の唇に、やわらかい薄桃色の儚い唇を重ねた。

「じゃあね。ばいばい」

 意味ありげな瞳が、僕を射貫く。

 楽しんだ玩具が壊れてしまったときのような。後悔のない悲しみに浸るような。

 ああ、彼のこの美しい表情を、何と表現したらいいのだろう。

 最後に見れて、よかった。

「おやすみ、×××××」

 聞こえた声を合図に、僕は絶命した。

 視界が闇に閉ざされる瞬間には、もう、葵の姿は無かった。

【意味ありげな瞳――了】

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